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2016-02-01

「洟をたらした神」復刊記念フェア

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吉野せい、という作家をご存知ですか?
大正から昭和にかけて、詩人である夫とともに福島県阿武隈山麓の開墾に従事し、その生涯のほとんどを土と暮らす農民として生きた女性です。
七十歳を過ぎてから、草野心平のすすめにより筆をとり、農民としての生活の実感から生まれた、研ぎ澄まされた随筆を残しました。
そしてこの度、絶版になっていた「洟をたらした神」が中公文庫からめでたく刊行!
空想製本屋は、カバーを担当させていただきました。
商業出版のブックデザインは初めてのこと。
どきどきしながら挑戦した次第です。

 実は「洟をたらした神」との出会いは、数年前に遡ります。
この文庫を担当された中央公論新社の編集者Hさんからのご依頼で、Hさんの蔵書の「洟をたらした神」を、お仕立て直しさせていただいたのです。
当時私はこの作家の作品をはじめて読み、自然とともに生きる生活から生まれた、しっかり根を張った揺らぎのない言葉たちにとても衝撃を受けたのでした。

Hさんのこの本への思いを聞くうち、私も吉野せいの姿を追うようになっていました。
当時、今の暮らしに足りないものがこの中にはすべてある、と感じたほどでした。
以来、大事な本のひとつとなっています。
縁あって、文庫となった装丁を担当させていただき、とても嬉しく思っています。
(Hさんご蔵書の「洟をたらした神」は「本棚」ページに掲載しています。探してみてくださいね。)
 
そしてそしてさらに。
復刊を記念して、往来堂書店でフェアをしていただくことになりました。
題して「吉野せいとその周辺」。
土に根ざしたことばを持つ唯一無二の随筆家と、彼女のことばを世に出すきっかけとなった草野心平や串田孫一の著作をそろえました。
合わせて、レジ横の壁面にて、カバーの原画や、校正紙も展示します。
フェアは年内まで。串田孫一編集の「アルプ」などの古書も追加予定です。
 
福島の地で、与えられた自然に寄り添い、時には闘い、「百姓女」として生きた吉野せいのことばや生涯は、
原発事故後、自然との関わり方を考え直す岐路に立たされているいまのわたしたちに、新鮮な驚きと懐かしさをもって響いてきます。
うそもてらいもない、自然との生活から生まれた質実なことばを持つ女性、吉野せいの世界に、この機会に触れていただければ嬉しく思います。
 
:中公文庫「洟をたらした神」吉野せい
:2012年11月25日刊
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