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concept                                                                            photo by Chihiro Suzuki

空想製本屋の制作する本は、大量生産の本ではありません。
たくさんの人に一度に届けるのではなく、一冊一冊を、一人一人、顔の見える方に手渡すために。
何百年も前と同じ方法で、手を使って、時間をかけて、丁寧に本を仕立てます。
「製本工芸」は、一点ずつ、工芸的な要素をとり入れて本を制作する技術です。
その伝統は、ヨーロッパで仮綴じ・未綴じの本を読者が製本家に注文し好みの装丁に仕立てる、という文化の中で育まれてきました。
日本では版元製本が主だったこともあり、個人が本の形を自由に考える場は一般的ではありませんでした。

空想製本屋では、製本工芸の技術を活かしながら、しかしそれにとらわれることなく、毎日の生活に寄り添う、温度のある佇まいの本づくりを試みています。
一冊ずつ手で作ることで、本の素材や構造はとても自由になり、作り手や読み手の思いを込めた表現が可能になります。
単なる紙の束だったものが、手作業の積み重ねによって、本へと変わり、一つの世界が立ち上がる。
本を読む人の日々とともに、移ろい、育ち、年月を経てなお愛着の湧く本になっていく。
手製本の現場には、そんな本づくりの喜びが満ちています。

いまや、本は紙だけに繋ぎ止められた存在ではありません。
けれど、だからこそ手製本は本との関わり方のひとつの可能性なのかもしれない、と思うのです。
手製本を通して本と人との関係を捉え直し、本を読むこと、本とともにあることをより深く、身体的にできたなら。それが空想製本屋の願いです。

profile  

本間あずさ
1983年茨城県笠間市生まれ。東京外国語大学卒業。
大学在学中の2005年より、都内の工房にて手製本を学ぶ。
編集職を経た後、2010年「空想製本屋」を屋号に製本家として独立。
2011年、半年間スイス・アスコナの製本学校で再び学ぶ。
東京都武蔵野市の自宅兼アトリエを経て、2018年秋、独立したアトリエを小金井市内に構える。
現在は、少部数の受注製本、製本教室、作品制作など活動中。
自作手製本レーベル atelier bōc を主宰。
手の仕事としての製本、生活工芸としての製本を担い、日々考えています。